飛騨御坊・高山別院照蓮寺・真宗大谷派 岐阜高山教区 高山教務支所

ひだ御坊一口法話

2022年5月27日

伊達 俊幸 (称讃寺住職)

第72話 素直な目で

ある雑誌に俳優の竹下景子さんのインタビューがあった。

「差別や偏見から脱するには、まず素直な目で相手を知ることから始めなきゃいけない。」

それは、竹下さんがナレーションを務めた映画『一人になる 医師 小笠原登とハンセン病強制隔離政策』の、その主人公から受けた彼女の感想だ。小笠原登さん(1888~1970)は、医師であり、僧侶でもあり、ハンセン病隔離政策に異を唱え、患者に寄り添い続けた人だという。

ハンセン病は、そもそも感染力の弱い病でほとんどの人は自然の免疫で防御することができる。すでに治療薬が発見されてから七十年以上が過ぎ、完治する病となって久しいのである。にもかかわらず、病が完治した元患者であっても長年、一般社会から隔離され続けていた。しかもその差別や偏見は、今も元患者のみならず家族親類に及ぶまで重くのしかかっているのだ。

今、ストップ「コロナ・ハラスメント」について高山市役所ホームページにこうある。

「新型コロナは人類未知のウイルスであり、誰しも怖いものです。 この病気に対する恐怖心、誤解や偏見により、知らず知らず誰かを排除したり、差別をしていませんか?」

未知なるものへの恐怖心。今ある生活が脅かされる恐れ。私たちは、生まれてからずっと「恐れ」の中で生きている。今の感染症蔓延の状況が、思いもよらず私たちの心を暴くのだ。今まで「私は差別などしない」とそう思っていた私が、わが身が脅かされると、とたんに人を責めずにはおれなくなる。

竹下さんのおっしゃる「素直な目」とは、そんな恐怖心にあおられて衝動的に人を攻撃してしまいかねない自分、その自分を見つめる目でもある。衝動的に人を攻撃してしまいかねない弱さを、私たちはみんなそれぞれ持っている。そんな自分の弱さを悲しむ心が、お互いの弱さを理解し、手を差し伸べあっていく。そんなつながりが今の私たちに願われているのではないだろうか。

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