2021年8月16日
窪田 純 (圓徳寺住職)
第33話 無有代者
「おもちときなこはどこや!?」と、大声で妻にたずねる。
正月の朝ごはんの話ではない。
9歳の娘が可愛がっていたゴールデンハムスター2匹が、
脱走してしまった。ケージ(かご)のとびらの閉め方が甘かったようだ。
最後に姿を確認したのは、朝7時。脱走に気づいたのは、10時半。
長い時間気づかなかった・・・。
「将来は動物の世話をする仕事に就きたい」と願う娘の悲しむ顔は見たくない。
私と妻は、おもちときなこを必死に探した。
同日夕方、玄関できなこを発見する。広い床下を冒険してきたようだ。
おもちはまだ見つからない。折にふれ、悲しそうな顔をする娘を見て、
「代わりにもう一匹飼おうか・・・」という考えが頭をよぎったが、
今年2月に話題となったニュースを思い出した。
ある有名人が、愛犬を亡くして悲しむ友人家族に、
自分の愛犬を里子として譲る様子をYouTubeに公開したところ、
多くの批判があったというニュースだ。
新しい犬を迎えたご家族は大変感謝されており、
ご当人同士でないと分からないこともあると思う。
しかし、これが犬ではなく人だったらどうだろう。大切な方を亡くして失意の底にある中、
友人が「新しい家族に」と言って連れてきた人と一緒に暮らす・・・。
娘が悲しいのは、ハムスターがいなくなったからではなく、
生活をともにしたおもちがいなくなったから悲しいのだ。
『仏説無量寿経』には、「無有代者(有(たれ)も代わる者なし)」と説かれる。
おもちの代わりは、どのハムスターにも務まらない。
おもちの代わりを生きる命はない。私たちも同じく、誰かと比べられない、
比べる必要もない、唯一の身をいただいて生かされているのだ。
去っていった存在は、大切な教えへと姿を変え、
決して私たちの元から去ることはなくなった。
ドリー・パートン の「あなたの人生をかわりに生きてくれる人はいないわ」
という言葉を思い出しながら、今日もおもちを探している。