2025年11月15日
白尾 幸子 (了心寺坊守)
第182話 順番
「メルシー・ダンケ・トガリア」
これは、3年前に亡くなった前住職が、生前よく口にしていた言葉である。「メルシー」はフランス語で、「ダンケ」はドイツ語で、それぞれ「ありがとう」の意だが、「トガリア」については意味不明である(おそらく造語)。体が弱く、入退院を繰り返していたが、看護師さんにお世話になる度、「メルシー・ダンケ・トガリア」と礼を言い、周りを和ませていた。再入院すると「メルシー来たよ」と看護師さんに言われる程。感謝の心とユーモアを持ち合わせた人だった。
そんな前住職も94歳で還浄し、順番でいけば次は4歳年上姉さん女房の前坊守かな、その後は親子ほど年下の実家の両親かな・・・などと介護の考えを巡らせていたが、その半年後に実家母が癌のため76歳で還浄する。
『順番』なんて、ないのである。私の頭の中では、婚家の両親を看取ったら、その後ゆっくり実家の両親に親孝行して・・・と想像していたが、それは勝手な妄想に過ぎず。「親孝行 したいときには 親はなし」「石に布団は着せられず」ということわざがあるが、昔の人は、上手いこというなあ・・・と感服する。
知り合いの中には、お子さんを先に亡くされた方、お連れ合いを早くに亡くされた方、事故や突然死など急にご家族を亡くされた方、長い闘病の末に亡くなられた方など、なんとお声がけしてよいのか悩ましい方々もいらっしゃる。
蓮如上人が書かれた『白骨の御文』に「我やさき人やさき・けふともしらずあすともしらず」とある。還骨勤行で幾度となく聞いてきたが、まさにこの通りなのだと、しみじみ思う。
実家母が亡くなって1年後、前坊守も99歳で還浄した。私には孝行出来る親は、実家父だけになった。
そんな父も、入退院を繰り返して気弱になり「早くお母さん(連れ合い)迎えに来ないかな」などと言う。
敢えて、私は言う。
「まだ順番が来ないんじゃない?」

