2025年8月15日
三島 千裕 (真蓮寺坊守)
第176話 『いつかまた会える』
私には一つ後悔していることがあります。
6年前に新たないのちを授かったのですが、その子の誕生を誰よりも楽しみにしていた父に会わせられなかったことです。そして・・・。
2020年春、新型コロナウイルス感染症の流行による緊急事態宣言が発令。不要不急の外出が制限され、ようやく首のすわった赤ちゃんを故郷に連れていけると思っていた矢先、それが叶わなくなりました。月日が経っても、県をまたぐ移動がはばかられ、まだまだ、まだまだ、と、ことごとくタイミングを失っていました。
そんな2022年6月のこと、父が脳梗塞で倒れてしまいました。意識を取り戻したものの、脳に障がいが残り、私のことも分からなくなってしまいました。病院とリモートで繋いで面会するのですが、父はかつてのように私の名前を呼んでくれることはありませんでした。会話にならない時間がもどかしく、ただただ涙ばかりがあふれて「ごめんね」としか言えませんでした。
その後、幾度か父に会いに行くタイミングが訪れたのですが、自分の中で言い訳をして会いに行くことをしませんでした。コロナの状況が収まっていないからといいつつも、本当は私のことを忘れた父に会うのが怖かったのだと思います。そして、またどこかで、ちゃんと会いに行ける日が来ることを疑っていなかったのです。
そんなある日、父が病院で転倒。そのことが原因となり、2023年3月5日、父は帰らぬ人となりました。ようやく会えた父は、お棺の中で眠っていたのです。
「いつかまた会える」。それは幻想でした。いのちの現実は、私の思い通りにはいかないのだと。いま生きているいのちは決してあたり前じゃない。この子たちとの時間も永遠じゃない。そんな今を大切に、かけがえのないものとして生きなきゃダメなんだと、父が私に教えてくれています。
最後に言えなかった「ありがとう」の言葉をお念仏に変えて、今、父に「いつも会わせて」もらっています。