2023年9月15日
細川 宗德 (蓮乗寺住職)
第130話 ニューオオタニ
小学生の頃、家庭科が得意でした。成績はいつも最高ランクの5。ブランケット縫いなどの裁縫はお手のもの。包丁を握ることも好きで、料理クラブに入ったことも。男の子の入部は珍しかったと思います。異性が気になりはじめる年ごろ。頼まれもしないのに、女の子にはいろいろアドバイスしたものでした。
その家庭科がこの歳になって役に立つとは。老眼もなく針に糸が通りますので、破れた白衣の袂(たもと)を繕ったり、すれた足袋の裏地を直したり。食事だって3食つくります。魚の煮付けでも、ポテトサラダでも。それでも栄養は偏り気味。それゆえお斎の席ではコミュニケーションをとるより、料理に集中しています。ごめんなさい。
家事に追われる生活がもう12年あまり。隠すまでもなく、私は「シングル・アゲイン」。父母はなく、子どもからは距離を置かれ、年老いた祖母はこの夏から老人ホームへ。お寺で独り法務をしています。法事の際のお茶も自分で入れますし、雑巾がけも慣れたもの。
真宗大谷派がほこる聞法道場、東本願寺の同朋会館。食堂や浴場もリニューアルされ、これぞまさしく「ニューオータニ」。ただ同名で有名なホテルと違うのは、清掃や食事の準備といった、いわゆる「家事」にあたることをスタッフに任せず、自分たちで行うこと。在家止住、真宗の生活の体現。寂しげにも見える今の私の生活は、同朋会館の精神を継承した証なのです。
会館といえば、思い出すことがあります。かつて三島多聞さんと一緒に、親鸞教室の後期教習を引率したことがありました。三島さんは引率者としての自覚に乏しく、開始早々、センセイになってしまいます。「この部屋は、タバコはダメですよ」との私の忠告にも耳を貸さず、灰皿を持ってくるように指示。紫煙をくゆらせながら、講師の語りをより深く掘り下げ、時間をかけておはなし下さいました。講師も静かに聞いておられました。
お世話をしてくださるスタッフの「京都での3日間は日常を離れて……」の発言に、三島センセイが一言。「君、日常を離れた真宗とは何ごとか!」。会館で禁煙を守らないのも、日々の生活を大切にするからなのですね。センセイは今では高山別院輪番になり、言葉を交わすことも少なくなりましたが、自分にとっては忘れられないエピソードです。