2023年4月7日
渡邊 侑希 (了因寺住職)
第117話 春告鳥と如来の御催促
ホーホケキョ、ホーホケキョ。長く寒さ厳しい冬が過ぎると、どこからともなく聞こえてくる ウグイスの鳴き声。ウグイスは別名、春告鳥(ハルツゲドリ)と呼ばれるように、私達日本人に とっては、とても愛嬌のある声で春の訪れを知らせてくれる馴染みの深い鳥です。調べてみる と、ウグイスは1日に1000回近く鳴くこともあり、鳴くのはもっぱらオス鳥ばかり。オス鳥 が一族の縄張りに危険がないことをメス鳥に知らせるために鳴き、その声を聞いたメス鳥は安心 して巣にエサを運び、帰ってくることができるのだそうです。
さて、今から500年以上も遡った明応8年、『御文』を書いた本願寺第八代の蓮如上人は、 臨終が目前に迫る病床の中、ウグイスの鳴き声を「法ほきゝよとなくなり(法を聞けよと鳴くな り)」と聞かれたといいます。僧侶が兵隊化し戦に明け暮れ、仏法を蔑ろにしていた当時の有様 を戒める言葉として伝えられています。しかし、他者を戒めるということだけではなく、蓮如上 人自身にとっても何か感じるものがあったのではないでしょうか。“生まれた者は必ず死す”とい う「生死無常のことわり」が、自己を揺さぶる一大事としてあらわれたとき、ウグイスの鳴き声 が単なる鳥の鳴き声ではなく、「法を聞けよ」という如来の御催促となって、蓮如上人の耳に深 く響いたのでしょう。
春になるとお彼岸を迎え、各寺院で法座が開かれます。先立って往かれた方々を縁とする法座 です。私もお寺の住職として、この一年間、例年と同じように寂しく悲しい別れに出あい、葬儀 を勤めてきました。ウグイスの鳴き声を如来の御催促と聞いた蓮如上人と同じように、先立って 往かれた方々の存在そのものが私をご本尊の前に座らせ、お念仏を称えさせるのです。如来は 姿・形を変え、常に私達に向けて御催促をしてくださっています。