2023年3月3日
北條 秀樹 (了泉寺住職)
第112話 きっと面白い
「ものの見方さえ面白ければ、どんな時でもどんな場所でも面白いものになる」
ラップグループRHYMESTER (ライムスター)のラッパーでありラジオパーソナリティである宇多丸氏の、あるインタビュー記事の言葉だ。
ラップという音楽は歌詞のメッセージ性がとても強く、演者は言葉に命を込め、生きた言葉を人に伝える。この音楽の歴史は浅く、’70年代初頭にニューヨークのサウス・ブロンクス地区で生まれたとされる。当時のその地域は、貧困でドラッグにおぼれる人や、ストリート・ギャングが多く、古いボロボロの建物が並ぶ町だった。アメリカの栄華の影で生まれた音楽だ。
そんなラップが日本に広がったのは’90年代初頭、バブルが崩壊し、栄華と困窮、発展と淘汰、様々な格差が社会に広がり始めた頃だ。その風潮は今現在も私達の足元に滞留し続ける。勝ち組負け組なんて言葉がはびこり、私たちは隣の芝を青く見て、面白くない事、腹が立つこと、悲しい事、納得できない事に日々埋もれ、もがく。
宇多丸氏はこう続ける「あれがないこれがないと無いものねだりして、人生に絶望することは簡単だけど、ちょっとこう視点を落として、ちょっと角度を変えてやったら、今あなたがいるその場所が世界で一番面白い場所になるのではないか、そんな考え方を与えてくれるのがラップなんですね」
自分の奥にドロドロと湧き出る思いや感覚が、言葉に昇華され、研ぎ澄まされ、突き詰められて表現されるものがラップという音楽だ、と、氏は言われる。
さて、私は仏法を聞く一僧侶だ。仏法とは、仏の言葉から、自分の考え方・見方が問われるものだ。その仏法が説く事を、私はこう受け止めている。
「人生は苦だ。人生に絶望するのは簡単で、愚痴は尽きない。でも、ちょっと視点を変えて、ちょっと角度を変えてみたら、今私とあなたがいるこの人生は、きっと、面白い」