飛騨御坊・高山別院照蓮寺・真宗大谷派 岐阜高山教区 高山教務支所

ひだ御坊一口法話

2022年1月28日

細川 宗徳 (蓮乗寺住職)

第55話 「向こう」で酌み交わすお酒

故人が好きだったのでしょう。棺おけに、紙パックの日本酒が供えてあるのを見かけます。温めなくても「かん酒」。他県産の「鬼ころし」が多いようです。ストロー付きなのは、入れ歯を外している故人への思いやり。

父を偲んでの喪主あいさつ。「向こうで友人と酒を酌み交わしていることと思います」。悲しみの中、あげ足を取るようで申し訳ありません。残念ながら仏さまの世界にお酒はございません。持ち込みもダメ。東本願寺での宿泊研修とは違い、建前ではなく。向こうでは皆さんさとっておりますから、苦情は出ないそうです。酔わなくても通じる世界だからです。

喪主からの質問。「別れの時、棺の中にお酒を入れてもよろしいですか」。父のために密輸を計画したもよう。隠れてのむ酒は美味しいと言いますから。仏さまの世界はノンアルコールと知ったら、がっかりされるでしょうか。気づかいして答えます。「早く呑むようお伝えください。火葬場で火が入るとアルコール分はすぐ蒸発します」。

ここまで書いて気がつきました。「向こうで友人と酒を……」の喪主あいさつ。「向こう」を仏さまの世界と早合点していました。その真逆、地獄のことだとしたら。

悪重く、さわり多き人生を誰もが歩んでいます。こちらの官庁と違い、罪状はしっかり記録・保管されています。「記憶にございません」は通用しません。地獄行き、間違いなし。鬼のような地獄の公務員とのガチンコ対決が待っています。とてもとても、しらふでは……。そこで景気づけに一杯。銘柄もこだわり「鬼ころし」。地獄の釜で燗を付けて。

「炎に焼かれて酒を呑む余裕なんてあるのですか」。安心ください。今は地獄にも人権があります。地獄版SDGs(持続可能な開発目標)。さあ閻魔さまも一杯いかがですか。親友になりましょう。意外とお酒弱いのですね。閻魔さま、もう顔が真っ赤ですよ。

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